『黒い家』
“恐怖”を突き詰めて考えてみると、正常に対する異常、日常に対する非日常、 現実に対する非現実の存在だと思う。従ってホラー映画で恐怖を演出するには、 まずリアリティを持った世界があって、その中に異空間なり怪物なり殺人鬼がリアリ ティを突き崩す様にするのが定石である。例えば個人的に最も怖がらせてもらった『 エイリアン』では、人間ばかりの閉鎖空間に突然エイリアンという怪物が現れるが、 一番コワかったのはエイリアンが殺戮を行なうシーンではなく、暗闇から、隙間から 突然その姿が現れたところだったんだよな〜。で、スプラッタホラーでは人体が破壊 される事が、サイコホラーでは隣人が殺人鬼に変身する過程がコワいんだと思う。つ まるところ良く出来たホラー映画ではこの過程がキチンと描写されてるワケなんですね。 そういうワケで『黒い家』は全然ホラー映画になってない。前半はいつもの森田監督 の不条理劇で、後半は 大竹しのぶと内野聖陽が延々階段デスマッチ を繰り広げるという、アルティメット系格闘映画でした。 どうしてこうなったかというと、 早いハナシが登場人物が全員ヘンタイだからなんですな。 全然リアリティのない“森田ワールド”でエキセントリックなキャラクターが 不条理劇演じてるんじゃコワいものもギャグになる、 キ○○イが刃物振り回すのは当然でキモチ悪いけどコワくはない。それにしても 役者にこれ程のヘンタイ演技ばかりさせるというのは凄い。西村雅彦はヅラ付けてギ ャグかましつつクルクル演技がクサいのなんの、大竹しのぶはトロ目を見開いてマッ クス・ケィディに変身するし、内野聖陽は超早漏で幼児退行するし、唯一マトモな田中美里は、心理学専攻しと るくせに「本当に悪いひとなんかいない」とカマトト発言こいた挙げ句クルクル しのぶにシメまくられるし...彼女の受けたトラウマを思うと哀れでなりませんよ 、ホントに.... 内容ですが、ビンボくさい日本海沿い田舎町の三流保険会社につとめる主人公が、変 態夫婦の息子首吊り自殺事件に始まる保険金詐欺に巻き込まれ、挙げ句の果てはケイ ディ大竹に逆恨みされ出刃包丁で追いかけられてシャイニング状態に追いつめられる も、最後に彼女をデ・ニーロ同様見事返り討ちに仕留めるが、やっと戻って きた日常でもトラウマの黄色いボール脳ミソ裏をグルグルグル...とまあ なんとも気色悪いとしか形容ようがない展開。まあ『ケープ・フィアー』と『シ ャイニング』と『羊たちの沈黙』を足して長崎保険金殺人事件で味付けし森田流に腐らせたといったところでしょうか。 それにしても森田芳光にホラー撮らせるなんて、アスミックも無謀な事をす るものやね。おまけに火曜サスペンス劇場以下の地味な配役、大竹しのぶが 男に捨てられたウラミ全開で「チチしゃぶれ〜!!」と叫んだ瞬間、大爆笑させていただきました。 これホラー映画のつもりじゃなかったの?せめて「保険金詐欺する奴も悪いけど自 殺でも金払う保険会社はもっと悪どい」とか「キ○ガ○に常識はない、刃物にはマシン ガンで対抗!」とか「幼児虐待は殺人鬼のもと」とかダークでブラックなユーモア でもあればまだマシだったのに、ホンマ森田芳光の悪趣味全開ですわ。1999年最強の バッドテイストホラー『催眠』は、相当なアホ映画だけど国士狙いミエミエのエグさ 加減が画面から溢れててました。主役に今や最強の電波系女優菅野を使うと ころがあざとくてえかったです。 しかし収益でも『黒い家』は大惨敗でしょうなあ。 『山田くん』でコケて“鎌倉蝋人形館”まで手放した松竹は大丈夫なんでしょうかねえ。ま あいつまでもボケの廻ったモラトリアム人間しか撮れない山田洋次なんぞに 頼っているようじゃ、いつ倒産してもおかしくないですけどね。 では、また。